27 小特集 合理的配慮ってどんなこと? 上記の例のように,発達障害等 当事者の身体感覚問題は理解さ れにくく,具体的な支援につい てもほとんど明らかになっていな い。それゆえに筆者の研究室で は,これまで発達障害等当事者の べ1300名以上を対象に,当事者 の身体感覚問題(感覚過敏,身体 症状,身体の動きにくさ,スポー ツの困難,皮膚感覚,食の困難, 睡眠困難等)や求めている理解・ 支援についての調査研究を行なっ てきた。本稿では,それらの調査 研究のうち生きる上で不可欠の 「食」「睡眠」の困難を取り上げ, 当事者が求めている理解・支援を 紹介しながら,合理的配慮のあり 方について考えていく。 食の困難と支援のあり方 食物アレルギー・摂食障害など 食に関する多様な困難・ニーズを 有する子どもが増加し,学校にお ける食に関する指導と対応の充実 は重要性を増している。なかでも 発達障害等を有する子どもは,き わめて多様な「食の困難」を有し ている。 例えば,発達障害等当事者の食 の困難調査(高校生以上137名回 答,比較のため筆者の講義・演習 の受講学生119名にも実施)にお いて困難が大きかったのは「人の 輪の中でどのように振る舞えばい いのかわからないため会食がおそ ろしい」「自分が予想していた味 と違う味だと食べられない」等で あった。対象を小学生まで広げて 当事者73人が回答した調査にお いて困難が大きかったのは,「一 度好きになったメニューや食べ物 にはかなり固執する」「食欲の差 が激しく,食欲のない時はとこと ん食べず,ある時はとことん食べ まくる」等であった。 そうした困難に対する支援ニー ズでは「配膳時に量を調整した り,どうしても食べられない食材 を入れないなど自分で決めさせて ほしい」が最も多く,次いで「完 食を強制せず,食べられないこと も認めてほしい」「食べたいもの 等を本人に聞いて,それを大事に してほしい」等となった。 保護者にとっても子どもの食の 困難は,子育ての大きな不安・ス トレスである。発達障害等当事 者の保護者調査(65人回答)で も「せっかく作ったものをいつも 食べてもらえず,自信や意欲を失 う」「もう食事を作ることに時間 や手間をかけることをやめたい」 「食事介助の時などに怒鳴ったり, 叱責してしまったことがある」等 の回答が寄せられた。 「食べる」ことは「食物=異物」 を体内に直接的に受け入れるこ とから,子どもにはとりわけ「不 安・恐怖・緊張・ストレス」等を 伴いやすく,限定された食嗜好や 極度の拒絶になると想定される。 はじめに 近年,発達障害等の発達上の特 性・困難を有する当事者(以下, 発達障害等当事者)が求める理解 と支援に関して,感覚情報処理の 困難や身体症状(自律神経系や免 疫・代謝・内分泌の不調・不具 合)などの身体感覚問題の重要性 について注目され始めている。 例えば,成人期に「自閉症」と 診断された片岡聡氏(2011)は, 博士(臨床薬学)学位を有する専 門家でもある立場から,発達障害 者の「身体障害性」への支援につ いて次のように述べている。片岡 氏は自身の感覚過敏の例として 「他人の体臭や騒音に過敏で電車 に乗れない」「オフィスの空調の 音で仕事に集中できない」こと, 「自律神経調節,内分泌調節の脆 弱性」の例として「急な気温や 気圧の変動で著しく体調を崩す」 「睡眠覚醒リズムの調節が困難」 なことを挙げ,「発達障害の人は, 健常者と比較して内分泌調節,自 律神経調節に問題がある人が多 く,健常者が普通に適応できる環 境変化への対応ができにくいこと が多い」「これら発達障害の身体 障害性への援助はまさに発達障害 者へのバリアフリーの問題」と指 摘する。そして,特に「自律神経 調節・内分泌・睡眠リズムの調節 問題」に対する医療的支援を求め ている。
発達上の特性・困難を有する当事者
調査から捉える合理的配慮の視点
東京学芸大学特別支援科学講座 教授髙橋 智
(たかはし さとる) Profile─髙橋 智 東京都立大学大学院博士課程修了。博士 ( 教育学 )。放送大学客員教授,日本特別 ニーズ教育学会代表理事,法務省矯正局外部アドバイザー。専門は特別ニーズ教育学, 発達教育学。著書は『城戸幡太郎と日本の障害者教育科学』( 共著,多賀出版 ) など。28 がっている可能性も推測される。 睡眠困難に起因する日中の困難 では「よく眠れていないので昼間 はいつもだるく,すぐに昼寝をし たくなる」などが上位に挙げら れ,「睡眠不足のときは考えられ ないような失敗もしてしまう」こ となどが指摘されている。 睡眠不足や睡眠リズムの乱れが 各種の身体症状・体調不良につな がり,日常生活の困難を大きく し,その影響でさらに睡眠不足が 助長されるといった悪循環が生じ ており,睡眠困難の支援では睡眠 時だけでなく,日常生活全体を含 めた支援が求められている。 当事者の「不安・恐怖・緊張・ ストレス」への理解と支援 誰しも強い不安・恐怖・緊張・ ストレス状態に陥れば,自律神経 系や免疫・代謝・内分泌系の不 調・不全に起因する多様な身体症 状が生じる。それを緩和するに は,発達障害等当事者の不安・恐 怖・緊張・ストレスの軽減を第一 とし,当事者に安心して生きるこ とのできる環境と人間関係の保障 が不可欠である。 多様な心身の発達困難を有する 当事者は,自身の困難を言葉や態 度で表現することが難しいために 支援を受けにくく,誰にも相談で きないまま,不安を一人で抱え込 んでしまうことも少なくない。ま ず何よりも安全・安心な環境の保 障のもとに当事者との信頼関係を 築き,声を丁寧に聞き取り,ニー ズを把握し,それを踏まえながら 支援のあり方を検討することが肝 要である。 文 献 片岡聡(2011)発達障害者の職場適 応を考える:当事者の立場から. 「第18回日本産業精神保健学会教 育講演」資料 それに加えて「子どもの頃に無理 強いされたものは一番苦手なもの になっている」「給食で居残りし て食べさせられ拷問であると感じ た」という人も多く,食の困難を 「わがまま」と誤解され,厳しい対 応が「苦手さ・恐怖感」をさらに 増幅している。学校給食に対して は「『残していいよ』と言ってほし かった」「完食などを強制しない でほしい」など,食の困難への理 解と柔軟な対応を求めている。 当事者の食の困難に対する合理 的配慮のためには,当事者が抱え る困難・支援ニーズを丁寧に聞き 取り,それをふまえて支援のあり 方を検討することである。例え ば,NHKニュースおはよう日本 『発達障害の子ども:「偏食」の 実態明らかに』(2017年4月5日) で紹介された「広島市西部こども 療育センター」では子どもの食の 傾向を親から聞き取り,子どもの 感覚特性に応じた給食調理,イラ ストなどを使って食べられる食材 ということを示し,子どもの不安 を取り除き,安心感を与える工夫 をしている。こうした実践を通し て,数年で偏食の子どもの9割以 上が通常の給食を食べられるよう になったと紹介している。 睡眠の困難と支援のあり方 日本の子どもの睡眠時間は,国 際的に比較して顕著に短いことが 報告されている。睡眠時に成長ホ ルモンが分泌され,免疫・代謝機 能も発達するために,慢性的睡眠 不足状態にある日本の子どもは多 様な発達困難を抱えていて,例え ば睡眠リズムが乱れ,朝も起きら れない起立性調整障害の子どもが 増えていることが指摘されている。 発達障害等当事者も顕著な睡眠 困難を有することはしばしば指摘 されるが,その実態は十分に解明 されていないため,発達障害等当 事者調査を通して当事者の睡眠困 難の実態と当事者が求めている理 解・支援について検討してきた (当事者197名,受講学生183名)。 睡眠困難のうち入眠時の困難で は「入眠までにとても時間がかか る」が上位に挙がり,そのことと 「寝ようと思うとありとあらゆる 考えが浮かんできて,気持ちをし ずめようと思ったとたん,逆にめ まぐるしく回りだす」の相関が高 く,発達障害等当事者が寝つけな い背景には入眠前の興奮があると 推測された。 また,「入眠前の興奮」と「日 中の嫌なこと」との相関がみら れ,「日中の嫌なこと」が寝つけ ない要因であった。さらに「夜遅 い時間を自分の楽しみにあててし まい,遅くまで起きて本を読んだ り,テレビを見たり,ネットサー フィンをしたりしてしまう」のよ うに,夜更かししてストレス発散 している様子がうかがえた。 睡眠時の困難として「夜中に 何度も目が覚める」「フラッシュ バックで悪夢をみる」等の「中途 覚醒」があり,とくに「ちょっと 寝ただけで目が覚めてしまう」と 「一度目を覚ますと朝まで寝られ ない」の相関が高く出た。過去や 日中の辛さが睡眠時の夜驚・悪夢 につながっている可能性も推測さ れ,こうした中途覚醒は当事者の 睡眠時間の減少や睡眠の質の低下 にも大きく影響している。 起床時の困難では「起きたとき も疲れはとれず,体はとてもしん どい」「朝,疲れていてとても起 きられない」等が挙げられた。と くに「日中のストレス」と「朝の 目覚めの悪さ」に相関がみられ, 日中のストレスが強い時に起床困 難も強まることが示されたが,ス トレスが自律神経系に影響を与 え,そのことが起床困難につな